· 30 October 2026
I-REC Day Japan 2026参加レポート:拡大する日本の証書市場と、非化石証書の次の一手
2026年10月16日、Granular Energyの山口がI-REC Day Japan 2026に参加しました。登録機関、制度の専門家、発電事業者、需要家、金融機関が一堂に会し、日本の証書市場が急速に拡大するなかで、属性証明(EAC)の重要性が高まっていることを実感する一日でした。
日本の証書市場は、取引量・参加者数ともに拡大を続けており、その中心にあるのが非化石証書です。並行して、国際ルールは証書が「いつ・どこで」生まれたものかを問うようになっています。証書の利用も、熱、鉄、SAF(持続可能な航空燃料)、ガスといった新しい分野に広がっています。本記事では、次の4点を取り上げます。
- 日本の証書市場の成長
- 日本の脱炭素における非化石証書の役割
- CBAMの要件
- Granular Energyが果たせる役割
日本の証書市場は、量も参加者も広がっている
日本の証書市場の中心は非化石証書で、大きく2種類に分かれます。
- FIT非化石証書:固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff)の支援を受けた再エネ電源由来の証書。JEPXの再エネ価値取引市場で、小売電気事業者に加えて需要家も直接購入できます。
- 非FIT非化石証書:大型水力、原子力、FIT制度の外にある再エネなど、FIT以外の非化石電源由来の証書。主に小売電気事業者が、高度化法(エネルギー供給構造高度化法)の義務達成のために購入します。
FIT非化石証書の取引量は、2024年度の約600億kWhから、2025年度には約730億kWhに増えました(資源エネルギー庁)。買い手の参加も増えています。再エネ価値取引市場は、需要家が小売電気事業者と並んで直接購入できるよう2021年11月に創設されました。2025年度第4回のオークションには303者が参加し、それまでの最多だった2021年度の136者から2倍以上に増えています(JEPX)。一方、非FIT非化石証書は需要が供給を上回っています。主な理由は、小売電気事業者が高度化法の義務を確実に達成するため、必要量にバッファを持たせて購入していることだと考えられます。
非化石証書とは別に、国際的な仕組みであるI-RECも日本で使われています。I-RECは国の制度である非化石証書とは異なる種類の証書で、並行して運用されている補完的な存在です。日本での発行は、2025年以前は累計で数千件規模でしたが、2025年だけで6万件(約60GWh)を超えました(I-TRACK Foundation)。非化石証書と比べればまだ小さい規模ですが、新たな発電事業者の参入や、国際基準に対応したい需要家・仲介事業者の増加が成長を支えています。
電力以外の証書も、イベントの大きなテーマでした。国内では熱、鉄、SAF、化学品、アルミニウムで、それぞれ異なる仕組みの証書が生まれています。国際的には、I-TRACK財団がバイオガス・バイオメタン向けのI-TRACK(G)を運用しており、ガス証書を国境を越えて取引する方法についても議論されました。「ファクトを記録し、一度だけ主張する」という電力で確立された仕組みが、他の商品にも広がっています。その背景には、SBTi(Science Based Targets initiative)、GHGプロトコルといった制度の動きがあります。
なぜ非化石証書が日本の脱炭素の要なのか
非化石証書は、日本で圧倒的に規模の大きい再エネ属性の供給源であり、需要家がクリーンエネルギーの調達を示す手段となっています。その中心的な役割は、国内と国際の両方の報告ルールで価値を持つことにあります。国内では、小売電気事業者が高度化法の義務達成に、需要家が温対法にもとづく排出量の報告に使っています。国際的には、需要家がRE100などのイニシアチブでの主張に使っています。これに対して、I-RECが使えるのは国際的な主張だけです。
一方で、限界もあります。アワリーでのトラッキング情報を持っていないことです。小売電気事業者は、調達した証書を年度単位のサイクルで需要家ごとのメニューに割り当て、年度終了後の期限までに償却しています。発電と使用を時間単位で一致させて示すアワリーマッチングの仕組みはまだ一般的ではありませんが、その時代は近づいています。SBTi V2.0は、電力使用量の大きい企業にアワリーマッチングのスコアの開示を求めており、GHGプロトコルScope 2改訂も同じ方向を向いています。今後は、信頼性の担保されたアワリーマッチングを提供できるかどうかが、重要な差別化要因になります。
CBAMの要件
日本の属性証明が抱える課題は、今後さらに重くなります。その最もわかりやすい例が、EUの炭素国境調整措置(CBAM)です。CBAMは2026年1月に本格適用に入り、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力がEUに輸入される際に、製品に内包された排出量に応じた支払いがEU側の輸入者に求められるようになりました。日本の輸出企業は、次の点に備える必要があります。
- 排出量データの管理:申告に使う排出量のデータを提供するのは、生産者です。第三者検証を受けた実際の排出量を示せれば、デフォルト値を使う場合より輸入者の負担を抑えられる可能性があります。
- 系統の排出係数か、物理的な接続か:製造に使った電力の排出には、デフォルトの排出係数が適用されます。ただし、再エネ発電所と直接つながっている場合や、使用量に見合う再エネのPPAがある場合は、この係数に代えて実際の値を使えます(I-TRACK Foundation)。
- 属性証明がPPAの裏付けに:PPAで受け取った電力の排出を示す証拠として、属性証明の役割が議論されています。I-TRACK財団は2025年にCBAM対応PPAのテンプレートを公表しました(I-TRACK Foundation)。
- 対象は拡大の見込み:間接排出の扱いは対象品目ごとに異なり、範囲の拡大も検討されています。
登壇者は、2つのレイヤーを区別していました。一つは、いつ・どこで・どのように生産されたかを記録するトラッキングの仕組み、もう一つは、その記録を評価する制度です。CBAMは後者にあたります。CBAM自体が排出を追跡するのではなく、生産時に記録されたものにもとづいて判断します。そのため、日本の輸出企業が不利になるおそれがあります。再エネ電力の利用をCBAMが認める形で証明できなければ、その製品は系統電力で作られたものとして扱われるからです。現時点で電力由来の排出が対象となるのはセメントと肥料だけですが、対象が広がれば、グリーン鉄などの製品にも影響します。日本の証書制度全体を、こうした要件に合わせて設計し直す必要があるのではないか、という問題提起もありました。
Granular Energyが果たせる役割:非化石証書を「時間単位」で使えるように
I-REC Day Japanを通じて実感したのは、日本の証書市場は拡大している一方で、トレーサビリティはまだ追いついていません。Granular Energyは、属性証明の管理に特化したプラットフォームとして、次の役割を果たせると考えています。
- 非化石証書の管理を一元化する:将来の見通しと分析から、需要家ごとの詳細な割当、レジストリと証書の照合、償却、報告まで、環境価値ポートフォリオのライフサイクル全体を管理します。電力会社、小売電気事業者、トレーダー、仲介事業者が、表計算や自社開発のツールを自動化されたツールに置き換え、時間と手作業を削減できるよう支援します。
- 時間単位で照合し、割合を示す:Granular Energyは、世界最大級の時間単位マッチングの料金メニューの構築を支援してきました。発電の計量データを取り込み、時間単位の使用量データに対して償却された証書と紐付けることで、アワリーマッチングのスコアを算出します。SBTi V2.0の開示や、GHGプロトコル改訂への備えに役立ちます。
- 時間単位の証書を発行する:発電データをもとに、時間情報を持つグラニュラー証書を発行します。既存の証書に「いつ」のファクトを加えることで、主張の信頼性を高めます。
- 複数の証書を同じ基盤で扱う:非化石証書、I-REC、海外の証書を同じルールで管理します。CBAM対応のように、複数の証拠を重ねて示す場面にも備えられます。
Granular Energyは、Engie、SmartestEnergy、E.ONなど国際的な大手エネルギー企業とともに、世界各地で証書管理を支えてきました。日本でもJERA Crossをはじめとする電力小売事業者と、非化石証書を活用したアワリーマッチングの実現に取り組んでいます。市場が拡大し、ルールが細かくなるなかで、日本の経験と海外の知見をつないでいきます。
日本でのアワリーマッチングや証書管理についてのご相談は、日本担当の山口までお問い合わせください。
出典
- SCSK EneTrack:I-REC Day Japan 2026
- 資源エネルギー庁:非化石価値取引について(2026年6月5日)
- 日本卸電力取引所(JEPX):非化石価値取引市場の取引結果(新電力ネットによる集計)
- JEPX:非化石価値取引の改定(全量トラッキング)
- I-TRACK Foundation:Navigating the Japanese I-REC(E) market
- I-TRACK Foundation:EACs and indirect emissions reporting under CBAM
- I-TRACK Foundation・DLA Piper:Template CBAM Power Purchase Agreement(2025年6月)
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