· 1 October 2026
SBTi 企業ネットゼロ基準 v2:アワリーマッチングにとっての意味
先週、Science Based Targets initiative(SBTi)が企業ネットゼロ基準(Corporate Net Zero Standard、CNZS)v2 の最終版を公表しました。SBTi の中核となる企業向け枠組みの大幅な改定は、5年ぶりです。2015年の設立以来、11,000を超える企業や金融機関が科学に基づく目標(SBT)にコミットしています。そのため今回の改定は、企業の気候変動対策の説明責任に関わる基準改定のなかでも、特に影響の大きいものです。 なかでも注目すべきは、スコープ2の電力に関する要件の変更です。何が変わったのか、実務上どういう意味があるのか、そしてなぜ電力会社や小売事業者にとって重要な転機なのかを解説します。

任意の目標ではなく、義務としての報告基準
電力を大量に使う企業にとって、最も大きな変更ははっきりしています。大企業(「カテゴリーA」)のうち、事業のいずれかの地域で年間10GWh以上の電力を消費する企業には、その電力のうち再エネと1時間単位でマッチングできた割合の報告が義務づけられました。新基準のもとでは、これは必須の開示要件です。
報告とは別に、SBTi はさらに先へ進みたい企業向けに任意の認定制度も設けました。「スコープ2 アワリーマッチング」プログラムで認定を受けるには、現時点で消費電力の50%以上を1時間単位でマッチングする必要があります。この基準は2030年までに75%、2035年までに90%へ引き上げられます。
方向性は明確です。年間マッチングは最低ラインとして残りますが、信頼性を測る基準はアワリー(1時間単位)の粒度に移りました。
地理的な供給可能性の要件で、長年の抜け穴をふさぐ
CNZS v2 は時間に関する要件に加えて、地理的な制約も導入しました。これにより、信頼できるスコープ2の主張として認められる範囲が大きく狭まります。スコープ2の主張は、電力が実際に消費される地域にある発電設備に基づくものでなければなりません。
これにより、購入者の電力消費と物理的にも因果的にもつながりのない、遠く離れた市場から調達した環境価値証書(EAC)は、事実上使えなくなります。アワリーマッチングの要件と組み合わせると、「場所」と「時間」の両方を合わせたマッチングが、質の高い主張かどうかを判断する標準になったといえます。
議論はまだ決着しておらず、それが重要な意味を持つ
さらに踏み込むべきだという声もあります。天然資源保護協議会(NRDC)、Sierra Club、憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)などのNGO連合は、SBTi と GHGプロトコルに対し、アワリーマッチングを全面的に義務化するよう求めています。年間マッチングでは、本当に必要な時間帯に化石燃料による発電を置き換えているとはいえない再エネ電力についても、企業が実績として主張できてしまう、というのが彼らの主張です。
この議論は、欧州の証書市場で数年前から続いている議論と重なります。Granular Energy が策定と導入に関わった EnergyTag 基準は、まさに「時間の粒度こそがクリーンエネルギーの主張に意味を持たせる」という考え方の上に作られています。SBTi 自身も、アワリーマッチングは再エネ電力が発電される時間と消費される時間が本当に一致していることを示すもの、と位置づけています。実施スケジュールは業界の一部が期待していたよりも緩やかですが、この位置づけ自体が、その考え方の正しさを裏づけています。
ただし、アワリーマッチング率が最終的な指標ではない点には注意が必要です。最も重要なのは、炭素排出量を1時間単位で算定できることです。つまり、再エネ電力が発電されたのと同じ時間に消費されたかどうかだけでなく、その消費が実際に排出量にどう影響したかまで把握することです。現在進んでいる GHGプロトコルのスコープ2ガイダンス改定は、この課題に取り組むのにふさわしい立場にあります。業界は、枠組みが高い目標に追いつくかどうかを注視しています。
もう一点、まだ決まっていないことがあります。SBTi は基準の公表とあわせて、アワリーマッチングの算定方法に絞った意見・エビデンスの募集を始めました。今後、補足の技術ガイダンスが出る見込みで、報告要件や認定基準の実際の運用が細かく調整される可能性があります。企業とその供給事業者は、現在の要件を確定した枠組みとして扱いつつ、補足ガイダンスが出てくる動きにも注意を払っておくべきです。
電力会社・小売事業者がいま動くべき理由
電力小売事業者、電力会社、供給事業者にとって、CNZS v2 は規制の方向性を示すシグナルにとどまりません。いままさに広がりつつある商機です。
電力消費の大きい企業には、アワリーマッチングの実績を測定・追跡・報告するという新たな義務が生まれました。しかし、そのための商品、契約、データ基盤をまだ持っていない企業が多いのが現状です。アワリーマッチングを前提に設計した料金プラン、PPA、供給契約でこのニーズに応えられる事業者は、市場の変化のなかで大きな優位に立てます。
Granular Energy のプラットフォームは、まさにこの点を支援するために作られています。私たちは電力小売事業者や電力会社と協力して、アワリーマッチング商品の構築と事業化を支援しています。対象は、ポートフォリオの設計、EAC登録簿との接続から、最終需要家が SBTi への準拠を証明するための顧客向けデータ・報告機能まで多岐にわたります。粒度の細かい証書の発行、マッチングのロジック、監査に対応できるレポーティングといった複雑な部分はプラットフォームが担うため、事業者は顧客との商取引に集中できます。
検証済みのデータと確かな算定方法に裏づけられた、信頼できるアワリーマッチングのソリューションを顧客に提供できる事業者は、今回の変化から恩恵を受けやすい立場にあります。
Granular Energy ウェビナー
7月23日、Granular Energy はこのテーマを掘り下げるウェビナーを開催しました。STX の Sophie Casenave 氏と The Climate Group の Rachel Swiatek 氏をお迎えし、専門的な知見を共有いただきました。
ウェビナーの録画はこちら
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